#19
腰に回されている彼の手を取って、ツンと張りを見せる胸に手のひらを押し付けた。
上目遣いで見上げれば、卯月さんの目元が微かに赤く染まっている。興奮の証。
「んっ……卯月さん……さわって?」
唇をくっつけたまま囁く。
でも卯月さんのノリは悪い。本当にただ触れているだけで何の動きも見せない。
快感に繋がる刺激が欲しいのに、焦れったさが募る。
「やだぁ……なんで……」
卯月さんだって、色々シたいくせに。
眉を下げ、不満げな声を漏らす私とは対照的に、卯月さんは勝ち誇ったようなズルい顔をしてる。
「触ってんじゃん」
「触るだけじゃだめだもん……」
「ふーん。どうしてほしい?」
「……いっぱい、いじって……舐めてほしい……」
刺激が欲しくて腰を振る。卯月さんに求められたくて、私の中心を擦り付けるように、彼の太股の上を行き来する。そうすることで、卯月さんにその気になってもらおうと私は必死だ。
卯月さんはもともと、私を焦らしたり放置して愉しむような、意地悪なことをする人じゃない。こうしてほしいと伝えれば、ちゃんと応えてくれる。今日だってそう。私の望み通り、卯月さんは動いてくれた。
胸の谷間に吸い付くようなキスをして、布の上から胸をゆっくり揉みしだく。待ち焦がれていた快楽が訪れて、自然と笑みが浮かんでいた。
好き。これが好きなの。
卯月さんの愛情こもった愛撫の数々。私のカラダもココロ全部、とろとろに蕩かされて気持ちよくなっちゃうの。
これから何をされるのか、想像しただけで子宮が疼く。期待感が膨らんで、胸の中心が硬く勃ち上がっていく。
ベロア生地とはいえ、元は薄っぺらい布で製作されたトップスだ。インナーカップもなければ当然ワイヤーも入っていない。ぷっくりと膨れ上がった突起が、布越しでもわかるくらいに存在感をアピールしていた。
更に偶然なのか意図的なのか、卯月さんの指が一瞬、突起を軽く掠める瞬間がある。その度にぴくんっ、と身体が反応してしまうのを止められない。
「ん……ッ」
「……奈々、エロいんだけど」
「だってぇ……、っあ」
甘ったるい声が、驚きの声音に変わる。結び目が緩んで落ちてしまいそうなトップスを、卯月さんの手がずり下ろしたからだ。
ぷるんっと溢れ出た乳房が、彼の眼前に晒される。その胸を、卯月さんの両手が包み込んだ。
「あ……、卯月さん……っ」
「……やめてほしい?」
「だめっ、やめちゃだめ、やめたら拗ねるから……ッ」
子供のような主張に、卯月さんが苦笑する。
私の不安とは裏腹に、卯月さんの手が休まることはなかった。
手のひらでも収まりきらないほど大きく育ったおっぱいが、卯月さんの両手の中でやわやわと形を変える。薄桃色の突起を爪先で弾かれて、指の腹でコリコリと撫でたり、円を描くように擦ったり。今度は口に含んで、舌を小刻みに動かしながら乳首を転がすように弄ぶ。
ピクピクと痙攣したような快感が走って、あそこが私の愛液で湿っていくのがわかった。
「あぅ、あぁん、だめ、それ気持ちい……っ」
「……ん、すげーいい顔してる。可愛い」
「もっと、もっとして……?」
縋るように懇願する。敏感な突起を押し潰すように舐めながら、卯月さんは私をゆっくり見上げてきた。
そして唾液ごと、ちゅうっと強く吸い上げる。
「ひゃッ、あ、やぁあ……っ!」
不意打ちのような形で奇襲され、ビクンッ! と腰が大きく跳ねた。電流が走ったような強い刺激が全身を襲い、頭の中が真っ白になる。
同時に子宮の奥が、きゅうんっと強く疼いた。
「……奈々?」
「あーっ……、ぁ、ん……」
濡れそぼった私のあそこが、ひくひくと収縮を繰り返す。溜まっていた熱が一気に解き放たれて、びくん、びくんっと身体が震えた。
あ……、あぁん……。
乳首だけで、イッちゃった……。
ふっと快感が薄まっていく。
彼の胸に身体を預け、絶頂後の余韻に浸る私を覗き込む、卯月さんの顔が目に映る。
「……奈々、大丈夫か?」
「はぁ……う、うづきさん……」
「どうした?」
「なんか、ちくびでイッたっぽい……」
「……マジで?」
「うう、すごい変な感じがする……」
これまで色んな経験をしてきたつもりだったけど、さすがに乳首だけでイッた経験はない。クリやナカで達した時ほどの強い絶頂感ではないけれど、この疲労感や倦怠感は、達した直後に味わうそれと同じものだ。
でも、違うところもある。イッた直後のくすぐったさが全く無い。下腹部を直接刺激した訳じゃないから当然かもしれないけれど、乳首の責めで子宮でイく感覚は、今まで味わったことの無い絶頂の種類で、不思議な感覚に満たされた。
卯月さんとのセックスは、いつも私に「ハジメテ」を教えてくれる。
「……どうする? やめるか?」
私を膝の上に乗せたまま、卯月さんがコツ、と額に額を重ねて尋ねてきた。
肩で息をしている私を支えつつ、もう片方の手はゆっくりと頭を撫でてくれる。
「やめない。えっちする」
「そこは、ぶれないのな」
苦笑混じりにそう言って、背中で結んだ蝶々結びの輪っかに、卯月さんは人差し指を引っ掛けた。
ツンツンと悪戯に引っ張られ、結び目が更に緩んでいく。当然、トップスも一緒にずれていく。
「せっかく着たのに」
「俺にこの姿を見せるって事は、脱がされる事も期待してたんだろ、奈々」
図星を突かれれば何も言えなくなる。
結局紐はあっさり解けて、私達の合間にトップスが虚しく落ちた。
唾液でてらてらと濡れている胸の突起を、卯月さんが再び口に含む。優しく甘噛みされて、ぴりっとした快感が生まれた。
「ひゃっ、あ、やん」
「……コレだけでイクとか、感じすぎだろ。少し心配になるわ」
「や、喋っちゃだめ、またイッちゃう……っ」
「いーよ、イけよ。奈々が満足するまでずっと付き合うから」
「んっ、でも卯月さん、明日もお仕事だから……」
だから挿れていいよ、と目で訴える。卯月さんは疲れてるのに、私のワガママに最後まで付き合って貰うなんて申し訳なくて。
私のアイコンタクトの意味に、卯月さんも気づいたっぽい。彼の口から驚きの発言が出たのは、その時だ。
「俺、明日休み」
「……え?」
「有休取った」
「え」
ぱちくりと瞳を瞬かせる。
「で、でもクリスマスは仕事が忙しいから会えないって……」
そう言われたのは、12月に入ってすぐの頃。
会う機会が減ったのも、思えばこの頃からだった。
「あー、仕事な。大したことなかったからすぐ片付いたんだよ」
「………」
「あと年末年始も、割と長く休み取れたし」
「………」
「明日暇になったから、どっか行くか」
「……デート、してもいいの?」
変な訊き方だったかもしれない。恋人同士なんだから、デートしたって別に変じゃない。
でも、私のせいで卯月さんが仕事を犠牲にするのは、すごく嫌なの。
「したくねーの、デート」
不満そうな呟きにぶんぶん首を振れば、卯月さんも安心したように目を細めた。
「先約でもあったか?」
「ない!」
「じゃあ決まりな。明日は俺に付き合えよ」
……そういう言い方をするって事は、既に明日の予定を、卯月さんはもう決めてるって事だ。多分……ううん、きっと数日前から。
なかなか会えなかった期間、卯月さんがLINEで言ってたことを思い出す。『仕事が根詰めてるから会社に寝泊まりしてる』、そう言ってた。
わざわざ会社に寝泊まりしてまで仕事を頑張っていたのは、クリスマスやお正月を、私と一緒に過ごす為だったんじゃないかって、そう思ってしまうのは自惚れなんかじゃないと思う。
だって、卯月さんの仕事が『大したことない』筈がない。夜遅くまで仕事をしてる姿を、私は何度も目にしてる。すぐに片付く、筈がないんだ。
じんわりと溢れ出した涙を、卯月さんの人差し指が掬い取った。
「泣くなばか」
「う、だって、嬉しいんだもん」
「咽び泣くほどデートが嬉しいのはわかるけど、頼むから泣きやめ。奈々に泣かれると弱いって前にも言っただろ」
「泣かせてるのは卯月さんだもん……」
でも、嬉し泣きしてるのはデートができるからじゃなくて。
明日一緒に過ごすために、仕事を頑張ってくれた卯月さんの気持ちが一番嬉しいんだよ、なんて。
そう言ったところで、素直じゃないこの人はきっと認めようとしないんだろうな。
「どうせ泣くなら、ベッドの中で啼けよ」
「それオヤジギャグ……」
「そーか。ぜってー啼かす」
「……ひゃっ!?」
ふわ、と身体を持ち上げられて、運ばれた先はもちろん寝室。強引に押し倒されて、散々貪られて喘ぎ啼かされ続けた挙げ句、
「デートする分の体力は残しておけよ」
なんて言いながら、意地悪く笑う卯月さんは相変わらずの俺様で。
素直じゃなくて、優しくて。
世界一彼女想いの、大事な私の彼氏だよ。